コーヒー溺路線
その夜松太郎は取引先の建設したいわゆる一流の高級ホテルに来ていた。
定時になり社を出ると、松太郎の父親である秀樹が回した自家用車に無理に乗せられ、そのホテルに連行された。
その自家用車には秀樹も乗っていた。
「何ですか、実の息子を連行だなんて」
「まあそう苛立つな。今から有木株式会社の先方と食事会だ」
松太郎は無意識に深い溜め息を吐いた。余りに呆れて抑圧することができなかったのだ。
先方はもう既に会場に到着していると言う。気が重いことはこの上ない。
秀樹は鼻歌でも歌い出しそうな勢いですこぶる機嫌が良いらしい。
「やあ。遅くなって申し訳ありません」
「気にしていませんよ。お疲れでしょう。さあ、お掛けになって下さい」
ホテルの最上階の個室の一つを貸し切ったらしい。
秀樹と松太郎がその個室に入ると先に到着したという有木社長とその娘のミカコがいた。
秀樹が頭を下げたので松太郎もそれに習って頭を下げた。
松太郎が顔を上げると自分の見合いの相手であるミカコと目が合った。
どこにでもいそうだが、やはり多少は品のある顔付きをしている。
そうして松太郎はどうしようもなく彩子に会いたくなった。
「父さん、見合いの後に食事会を重ねるんじゃあなかったのですか」
「まあ細かいことは気にするな。先方の気分で希望されたことなのだ」
思わず松太郎は頭を抱えそうになった。
そこまでして有木株式会社と提携しなければならないのかと思うと、断るに断れないということは嫌という程よく解っているのだ。