コーヒー溺路線
「富田さん、電話番号教えてもらえますか?」
昨夜、限り無くあがり性の俊平は声が裏返るのを必死に抑えて、彩子に携帯電話の番号を聞いた。
彩子は微笑んでもちろん良いですよと答えた。
俊平は安堵の溜め息を吐く。
こうして彩子と俊平の距離は心なしか近付いたように見えた。
俊平が特別彩子に電話をかけることはなかったが、番号を聞くことができて携帯電話のメモリーに彩子の名前があるのを見ると底知れぬ達成感があった。
物凄く進歩である。
「富田さん、帰りましょう」
彩子が社を出ようと歩いているのを目敏く見つけた俊平は、忠犬ハチ公のように尾を振り振り駆け寄ってきた。
彩子はそんな俊平を一瞥してくすりと笑った。
「ごめんなさい。今日は寄り道をしようと思っているんです」
「あ、そうなんですか」
また明日と手を振って彩子は社を出た。
そんな彩子を俊平はじっと見つめていた。
彩子はこの日、いつものようにコーヒーショップへ寄り道をした。
彩子は松太郎の時のように俊平をこのコーヒーショップへ連れて来ることはしなかった。
「今晩は、マスター」
「やあ。彩子ちゃん」
マスターがマグカップを取り出しに行く。