コーヒー溺路線
 

「でもよく考えてみるとあんなに素敵な男性だもの。今までにそういう噂がなかったことの方が不思議よね」
 

 
「……」
 


 
彩子は黙ったままでいた。梓はそんな彩子を一瞥すると困ったように溜め息を吐き、暫くするとコンピュータのディスプレイに視線を落とした。
 

一方、松太郎はコンピュータに届いた新着Eメールを開いて溜め息を吐いた。
新着で未開封の電子メールは全部で二件あり、片方は最近妙に松太郎へ言い寄ってくる同じ部署の女性の飯尾明日香だった。
もう片方はこの前松太郎が実家に一度だけ戻った日に紹介された高野あさひだ。
 

両者は共に松太郎を一目で気に入ったが、明日香は彩子と仲睦まじく過ごす松太郎を知っていたし、あさひに関しては会うこともままならない。
明日香は、いつだかの親睦会で松太郎が渡した名刺に記してあったメールアドレスへ電子メールを送るようになった。あさひは松太郎の母親の愛里にでもメールアドレスを聞いたのだろう。
 

明日香からの電子メールにはそれはそれは露骨に誘いの言葉が並んでいる。
あさひは少しの近況報告と、次はいつ松太郎が実家へ帰ってくる予定があるかということや、松太郎の身を案じる言葉が並んでいる。
 

最初の頃は松太郎もちゃんと返事をしていたが、あさひには忙しくて返信する暇がないということにし、明日香の露骨な誘いは断り続けていた。
 

松太郎に彩子以外の誰かと深く関わるつもりはなかったのだ。
 


 
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