コーヒー溺路線
 

明日香はなかなかグラマーな体型をしていて部署の男性群から人気があった。
自分に余程自信があるらしい、松太郎への好意を露骨に示す訳である。
 


 
「藤山さん、メールは見ました?」
 

 
「ああ、うん、見たには見たけど」
 

 
「そろそろ食事くらい良いじゃないですか」
 

 
「……」
 


 
明日香は一度食事をすれば満足をするというのだろうか、松太郎は思った。
いや、それだけで満足しはしないだろう。露骨な態度と言葉を目の当たりにして松太郎は明日香の性格を分析する。
 

そのグラマーな姿態で今まで手に入れたいものは何としてでも手に入れてきたはずだ。
一度や二度の食事で満足ができるはずはない。
 


 
「すみません。食事だけとは言え、そういう誘いは断るようにしているんです」
 

 
「それは……恋人がいるんですか?」
 


 
この言葉に松太郎は少したじろいだ。
恋人でもないというのに、彩子への想いを理由にしても良いのかと今更思ったのだ。
 


 
「恋人はいません。だけど好きな人がいます」
 


 
しかし松太郎は明確な言葉で言った。
曖昧に答えていては彩子への愛を汚してしまうと思ったからだ。
彩子には届かなくとも、自分の信念の元に彩子への愛だけは汚さない。
 


 
「そうですか」
 


 
静かにそう呟いた明日香がどんな表情をしていたか、松太郎には判らない。
でも、これで良かったのだと思った。
 

彩子への愛を貫いたという変な達成感と、優越感とが松太郎に起こっていた。
 


 
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