コーヒー溺路線
 

「彩子さんが毎日通っている店に行ったんです」
 


 
ぽつりぽつりと俊平は話し始めた。
 


 
「どんなに俺がついて行くと言っても彩子さんは毎日断るんだけど、今日は思い切って彩子さんが店に入ったのを見てからその店に入ったんです」
 


 
先程は俯いていた俊平も意外にもハキハキとした声で話している。
和人は黙っている。時折コーヒーカップを持ち上げて傾けている。まだコーヒーは冷めていない。
 

俊平は彩子の怯えた顔を思い出していた。
 


 
「……俺、相当気持ち悪かったんだと思います。彩子さんが凄く驚いていて、カウンターの向こう側には男の人がいて」
 


 
あの時俊平が初めて見た、自分よりも少し年が上らしい風貌の男の顔も、今ははっきりと思い出すことが難しい。
あの時はあれ程憎いと思ったのにだ。
 


 
「彩子さんにその人とはどういう関係なんですかと聞いたら、マスターは、そうだ、あの男性は彩子さんにマスターと呼ばれていたな」
 


 
俊平は自嘲気味に笑った。
和人には何がおかしいのか解らなかった。
 


 
「マスターは大切な人だけど俺が思っているような関係じゃないって、彼女は言いました。でも信じられないじゃないですか、彩子さんが毎日通う程親しい仲だというのに」
 


 
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