コーヒー溺路線
 

彩子はコーヒーをマグカップに注ぎ、着替えてソファにもたれたままの靖彦に手渡した。
靖彦はサンキュと一言言うとカップに口を付けてから溜め息を吐いた。
 


 
「忙しいみたいね、仕事」
 

 
「ああ、少しずつ新しい仕事が増えていて会社側としてはこの上なく嬉しいけど、社員としては多少疲れるよ」
 

 
「体を壊さないようにしなくちゃね」
 


 
コーヒーを飲み終えると靖彦は風呂に入ると言って風呂場へ向かった。そんな靖彦の姿をまたしばらく見て、彩子は冷蔵庫からまだあまり冷えてはいないプリンを取り出した。
 


 
少し生クリームやフルーツが乗っている上品なたたずまいなプリンを皿に乗せ、彩子はそれを嬉しそうに眺めた。靖彦が自分の為にと思うと自然と顔を綻ぶ。
 

一口食べると何とも艶やかな口当たりの良さが広がる。
苦いコーヒーを飲みながら甘い物を食べるのは、時に、湿気た菓子のような即席のカップラーメンなどを妙に食べたくなるのと似た感覚のような気がした。
 


 
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