コーヒー溺路線
 

彩子はうどんを大きめの椀に注ぎ、箸と麦茶と七味も一緒に盆に乗せて靖彦の前にあるテーブルに置いた。
 

やはり靖彦はソファにもたれて睡魔に負けそうになっていた。
 


 
「靖彦、起きて」
 


 
彩子がそう声をかけると靖彦の手がぴくりと動いて、のそりとテーブルの前に胡座をかいた。
 


 
「少しでも良いから食べてね」
 

 
「うん、帰るのが不規則になってごめんな」
 

 
「私はいいのよ、靖彦が体調壊さないようにしないとね」
 


 
優しい声で言う彩子に靖彦は微笑んだ。
それからは部屋には靖彦がうどんを啜る音とテレビのバラエティー番組の音とだけが響いていた。
 

靖彦は疲れている時程温和な男である。
普段はとても神経質な性格の持ち主で、家の中では彩子もよくぶつかってしまう。
 

しかし彩子も靖彦も、上手く夫婦生活を過ごしていると思っていた。
 


 
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