妖怪外伝百鬼夜行
「え……っ」

言葉を今度は陽が失った。
予想もしていない言葉に、事実に、頭は機能を停止させ、分からなくなった。

秀明は事実をすらすらと告げる。

陽の母は当時はまだ18歳だった。
この町に生まれ、この町で秀明と出会い、この町で幼くして陽を産んだ。

消して恵まれた生活ではなかったが、幼い娘と年下の恋人とともに彼女なりの幸せをつかんでいたはずだった。
だが、それもほんのひと時のことだった。

娘の一歳の誕生日、いつものように帰宅する途中に、彼女は襲われた。

秀明が異変に思い探しに出たところで、ようやく彼女の遺体を見つけられた。
鬼に喰らわれ、全身の血をすすられた彼女の姿に、秀明は声を押し殺して泣いた。

無惨に殺された恋人。残された娘。
殺したのは一匹の鬼。強大な力を持つ鬼。

当時の秀明にはとてもではないが滅することのできない相手だった。


だから、彼は阿弥樫町を発った。
父の生まれ故郷である京都で、花宮家の本家の元へ向かい、修業を重ねた。
いつの日か復讐を果たすために、そのための力を京都で養っていく。
その間は、陽とのかかわりを大切にしてきた。まだ力が弱く、復讐を果たせない。
その分、彼女の遺した陽に惜しみない愛情を注いだ。
二人で生きて行こうと誓い、いつか阿弥樫町に戻ることを心に決めていた。

力を蓄えて、復讐を果たす。
その目標が秀明を強くさせた。成人を迎える頃には、すでに陰陽師の家元候補としてそのなが上がるほどだった。
そうしてようやく秀明は自信を持ち、阿弥樫町へと戻ってきた。


阿弥樫町は当時のままだった。
道を歩くたびに、彼女との思い出が巡る。決して消えてはくれない記憶。
気が狂いそうなほどに苦しく、いつしか秀明は強く復讐に取りつかれていた。
復讐心は、鬼への強い憎悪にかわる。

鬼を許さず、鬼を狩るために毎晩のように出かけ、
酒呑島に住まう鬼を見つけ次第片っ端にいたぶり殺し、狩っていた。



特に彼女の命日でもある陽の誕生日には、
娘との時間ではなく、憎悪による鬼狩りを優先して行っていた。

今まで娘に隠してきた秘密。


そのすべてを、秀明は明かした。
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