妖怪外伝百鬼夜行

次に向かうのは女子トイレ。
シャワー室を出て、足を進めようとした時に陽が気付いた。

「紅い火……」

陽が指さす先にあったのは紛れもなく紅い火だった。しかし、予想以上に小さい。
三階の窓の向こうにぼんやりと見える光は色を判別するのが難しいほどに小さい。
あの火は見たことがある。


「タバコ……?」

「あ、蒼い火も……、蒼い……火かな?」

よく秀明がふかすタバコのくすぶる小さな火だ。よく確認できたなと思う。
対となる蒼い火は千夜が見つけ、そこにも目を向ける。だが、アレを蒼い火と分類していいのか迷ってしまった。
どう見ても火じゃなく人工的な光だ。蒼い光に見える。

噂の人魂ではない。

「ケータイのディスプレイの明かり……」

ぼそっと鳥介は呟く。確かにその光のようにも見える。
だがこれが七不思議なのだろうかという話。微妙な話である。


「偶然?」

「いや、アレだけ怪奇現象もどきがあれば人魂と錯覚する奴もいるだろ。勘違いが広まったという程度じゃないか。……まあ、こんな時間に校舎にいるのは偶然では無いな」

七不思議の人魂ではなく、ただの偶然ではないかと千夜は首をかしげる。
だが烏丸はそうは考えていないようだった。先入観による思い込みであれば、確かにそれもありうるはず。だがそのタバコとケータイの主は、なぜこの時間に校舎にいるのか。

「もしかして、お姉ちゃんの」

「可能性はある。だが行くなよ。危険だし、何より間に合わん」

小夜子の監禁した犯人。そんな考えにおよび千夜は今すぐにも向かわんとしている。
だがそれを烏丸が制した。女を十年近くもここに監禁すほど異常な奴だ。何が起きるか分かったもんじゃない。


「でも……」

「トイレを調べるぞ。残りはそれ一つだ」

明らかにされている物での残り一つ。定番中の定番。

トイレの花子さん。

それを調べるために、また四人は階段を上って行った。


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