Love Water―大人の味―
ヒールを玄関に戻した部長は、温かいコーヒーを煎れてくれた。
差し出されたカップを見て、中が真っ黒だと気づく。
「なんで、ブラック……」
普通、女性に対してはミルクとか砂糖とか入れない?
すると部長は、いつもの無表情のまま言った。
「それ飲んで、頭冷やせ。苦いから、すぐに冴えるだろ。
なにがあったか知らないが……いや、大体見当ついたが……とにかくそれ飲んで帰れ」
部長なりの優しさ。
あたしの事情を察してくれて、こうやってコーヒーを差し出してくれる。
ブラックだけど。
確かに苦い味は、あたしの頭をすっきりさせてくれた。
いつの間にか、ノートパソコンを出して作業を始める部長。
忙しそう。
だから、早く帰らなきゃいけないのに、いつまでもここに居たいと思ってしまう。