Love Water―大人の味―
……まさか、部長の部屋で寝てたからいつもよりオシャレにかける時間がありませんでした、とは言えない。
そんなの、スキャンダルよ。
あたしにとっても、……部長にとっても。
顔を上げて奥のデスクを見る。
企画部部長の桐生千歳は、キーワードを叩きながら書類とにらめっこをしていた。
あたし、あの桐生部長と同じマンションだったんだ……。
いや!それよりも、上司の部屋で寝たことに問題ありよ!
朝目覚めるとすでに出勤したあとだった部長。
昨日のお礼の言葉も今日のお詫びの言葉も、まだ何一つ言えていない。
このまま素知らぬふりをすることもできるが、そういうのはあたしのモットーに反する。
お世話になったら、ちゃんとお礼はしなければ。
たとえそれが、あの無表情で冷徹な上司でも。