Love Water―大人の味―
「雨衣、なに部長の方ばっかり見てるの?」
梨華の言葉にはっとして彼から視線を外す。
梨華は眉を寄せてあたしに言った。
「部長となんかあったの?
なんかものすごく難しい顔してたわよ」
「えっ」
あたし、難しい顔してた!?
「なになに、あんた今度の恋は部長?
でも相当根気強くなきゃ、あの部長は無理よ。
何てったって、どんな女の子でも難攻不落な男だか……」
「ち、違うからっ!」
1人で勝手にしゃべりだした彼女の口を慌てて塞ぐ。
幸い、周りの社員には聞こえていなかったらしく、あたし達の方には目もくれなかった。
それにひとまずほっとして、さりげなく部長の方を伺う。
しかし懸念はなくなり、部長はさっきと少しも変わらず書類に向かっていた。
大きく息をついて、イスに深く腰掛ける。
危なかった……。
今の梨華の言葉が部長の耳に入っていたかと思うと、気がきではない。