Love Water―大人の味―
難攻不落の男。
それはこの会社での桐生部長に対する見方で、彼は専ら彼女を作らないということで有名だ。
なんでもどんなに美人でも可愛くても、告白されたら片っ端からフッていくとか。
普通の人なら『嫌な男』って思うはずだけど、なぜかこの会社ではそこにまた人気が集まるらしい。
だから、そんな部長のことを好きだなんて誤解されたら、あっという間にあたしは噂の種になってしまう。
そして好奇の目で見つめられ、憐れみの噂話が流れるのだ。
『営業の香川美緒ちゃん、桐生部長にフラれたらしいわよ』
『えーっ!あの子すっごく可愛いのにーっ』
『かわいそう!』
……みたいなね。
そんな渦の中には絶対に入りたくない。
だからさっさと昨日のお礼をして、あとは今まで通り何の接点もないまま過ごそう。
昨日のは、なかったことに。
そう考えながら、あたしは部長のデスクから自分のパソコンへと視線を移した。
それとすれ違いに、桐生部長があたしを見たことに気づかないまま。