Love Water―大人の味―




―――――――――……



午後5時。



勤務時間終了とともにデスクを立つ社員はちらほらうかがえる。



梨華は今日もその中に入って、あたしに手を振る。



「じゃあね、雨衣。

明日土曜だからって今日の夜飲み過ぎちゃだめよ」



「分かってるって」



どこまでも釘を刺す梨華。



そんなにあたし信用ないかな…と思いながら手を振り返す。



やがて彼女がフロアを出て行くと、あたしは再びデスクに向き合う。



特に早急にやらなければいけない仕事があるわけではないけれど、今日は残業の気分。



早く帰ってもどうせ1人だし。



梨華の言う通り、酔い潰れて明日の休日を無駄にはしたくない。



だから、残業をする。



周りを見渡せば、半分以上の社員は帰っていて、10分前と比べて一気に活気がなくなっている。



話し声なんてほとんどない。



ただ、キーボードを叩く音とコピー機が印刷する音だけが聞こえる。



昨日と、何も変わらない会社。



あたしが彼と別れても、なんの支障もなく動く世界。




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