Love Water―大人の味―
外に出ると、思った以上に雨は強かった。
地面にたたき付けるように落ちる水。
「傘、ないや……」
今更になって、傘を持っていないことに気づく。
朝はうんざりするほど太陽が輝いていたから、特に天気予報なんて気にもとめなかった。
いや、その前に今朝は忙しくてテレビなんて見てなかった。
ふう、と息をついてどうしようかと考える。
駅まで徒歩15分。
雨が止む気配はないし、これは覚悟を決めて走るしかないかと思う。
なんかあたし、昨日からついてないかも。
バックを胸に抱えて空を見上げる。
涙を流す灰色の空は、昨日もあたしを苦しめた。
これじゃあ、気持ちが沈むのも当たり前ね。
前を見据えて、ぐっと口を噛み締める。
「……雨衣さん?」
今まさに雨の中に飛び込もうとした時、後ろから呼び止める声がして足をとめる。
「矢野くん……」
あたしを呼び止めたのは、後輩の矢野森司(やのしんじ)くんだった。