Love Water―大人の味―
はっとして先のエレベーターのドアを見つめる。
ゆっくりと開いたドアの内側にいたのは、案の定桐生部長で。
さっきまでの眠気が一気に吹き飛んで、慌てて立ち上がった。
彼の方も、自分の部屋の前に部下が立っていると分かったらしく、少々足早にやってきた。
そして彼が目の前に来たとき、あたしは思いっきり頭を下げた。
「お疲れ様です、部長!
あの、昨日はすいませんでしたっ!
知らないうちに寝ちゃってて、部長のベッドまで借りてしまって……。
本当、申し訳なかったです!」
フロアに響き渡るほどのあたしの声。
用意していた台詞は頭の中で何度も繰り返していたから一気に言えた。
部長がどんな顔をしているかなんて、とてもじゃないけど伺えない。
だから、持っていたケーキの箱をずいっと彼の胸元に押し付けた。
「これ、お詫びです!
部長、甘いものとか確か大丈夫でしたよね。
駅前の美味しいケーキ屋さんのケーキなんです!
コーヒーとか紅茶とか、とってもよく合うんでどうぞ食べて下さい!」
彼が箱を持ったのを確認して、あたしは再度頭を下げる。
その間も、部長は無言だった。