Love Water―大人の味―
「あの、コーヒーを煎れろとは……?」
「そのままの意味だ。
ケーキにはコーヒーが合うのだろう。
だったら、俺の部屋にきて煎れてくれ」
「は、はぁ……」
まさか軽く言った自分の言葉を、部長がこんなに重くとっていたなんて。
それより、部長の部屋で煎れろだぁ!?
あたしはまた、彼の部屋に足を踏み入れなければならないの!?
昨日の今日でさすがにそれはどうなのだろう…、なんて訳の分からないことを考えているうちに、部長は自分の部屋のドアを開けていた。
いつのまにか、離れていた手。
大きく開かれたドアの突堤をつかむ部長に目を合わせると、無言で「入れ」と訴えかけていた。
悩んだのは数秒。
上司の命令に逆らうわけにはいかないと言い聞かせて、あたしは彼の部屋に足を踏み入れた。
ただ、コーヒーを煎れるだけ……と考えながら。