Love Water―大人の味―
マグカップを2つ準備する彼の隣で丁寧にコーヒーを煎れながら思う。
部長は何をしたいのだろう、と。
コーヒーごときで部下をわざわざ自分の部屋に入れるなんて、普通は考えられない。
それに、相手はあの部長だ。
無表情で感情をあらわにしない、厳しくも仕事のできる……そんな彼がどうして?
いつもより時間をかけて、ゆっくり作り上げるコーヒー。
これを煎れたら、あたしは帰っていいのだろうか。
そう思うが、しっかりあたしの分であろうマグカップを出してきた部長に、頭は混乱。
彼の意図が分からない。
「部長、砂糖とミルクは……」
隣で一連の動作を見ていた部長は、首を振って2つのカップを両手に持った。
「えっ……あたしもブラックで飲むんですか」
彼のあとを追い掛けながらその背中に問い掛ける。
彼は振り向かないで言った。
「甘いもの食うんだから、飲み物まで甘かったら、おまえ虫歯になるぞ」