Love Water―大人の味―




部長はといえば、特に気にした様子もなく軽く首を傾げて言った。



「行こうか」



「あっ、待って下さい!」



そのまま改札を通り抜けていきそうだったから、慌てて彼の腕を掴む。



「あの、やっぱり今日は……。

何か仕事の用事なら何でも言って下さい。あたしやりますから……」



我ながら自分勝手なことを言っていると思う。



もしも仕事の用事なら、部長が直々に指導してくれるかもしれないのに、それをあたしは断ろうとしているのだ。



桐生部長に近づいてはいけない、という自分勝手な理由で。



ふしだらな女にはなりたくないから。



……自分の気持ちが分からないから。



怒られるのを覚悟で顔を上げると、部長は掴まれた腕をじっと見つめていた。



「すいませんっ……」



ぱっと彼の腕を放すとしばらくじっとしていた部長は、やがてゆっくり顔をこちらに向けた。




< 78 / 102 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop