Love Water―大人の味―
部長はといえば、特に気にした様子もなく軽く首を傾げて言った。
「行こうか」
「あっ、待って下さい!」
そのまま改札を通り抜けていきそうだったから、慌てて彼の腕を掴む。
「あの、やっぱり今日は……。
何か仕事の用事なら何でも言って下さい。あたしやりますから……」
我ながら自分勝手なことを言っていると思う。
もしも仕事の用事なら、部長が直々に指導してくれるかもしれないのに、それをあたしは断ろうとしているのだ。
桐生部長に近づいてはいけない、という自分勝手な理由で。
ふしだらな女にはなりたくないから。
……自分の気持ちが分からないから。
怒られるのを覚悟で顔を上げると、部長は掴まれた腕をじっと見つめていた。
「すいませんっ……」
ぱっと彼の腕を放すとしばらくじっとしていた部長は、やがてゆっくり顔をこちらに向けた。