Love Water―大人の味―
恐れていた事態が起きてしまった。
口に出してストレートに言ったから緊張がほぐれたのか、部長の肩が僅かに下がったような気がした。
そして、笑って言う。
「食事、しよう」
今度は彼から伸ばされる手。
あたしは腕を掴んだけど、彼が掴んだのはあたしの手だった。
大きな骨張った手に包み込まれる。
さっきは血の気が引く思いだったけど、今度は顔に熱が集まる。
「は、放してくださいっ……」
こんなところ誰かに見られたら、と慌てて周りを見渡して手を振りほどこうとする。
しかし、彼はますます握る手に力を込めて言った。
「できない」
「どうしてっ……」
もう、なにがなんだか分からない。
だんだん視界はぼやけてくるし、部長は手を放してくれないし。
彼があたしを食事に誘ったことが、まさか本当に当たるとは思わなかったし。
別れた彼のことがまだ忘れられないはずなのに……桐生部長に心を惑わされる。