Love Water―大人の味―




「矢野、悪いが笹本は俺を待っていたんだ」



「、っ」



どうやって矢野君の誘いを断ろうと考え始めた矢先、会社の入口のドアが開くと同時にそう言った彼。



「……桐生、部長?」



目の前の矢野君はあたしを通り越してその後ろにいる人物に向かって口を開く。



「ちょっと仕事のことで用があったんだ。

だから、送っていかなくてもいいぞ」



エントランスに響く靴音と、どこか威圧感のある声。



矢野君は驚いた顔をしている。



「行くぞ、笹本」



すぐ後ろから聞こえる声。



それは、いつもと変わらない低いテノールの声。



目をつぶったあたしはひと呼吸おいて、頷いた。



「………はい」



ソファーを立ち上がって、呆然とする矢野君に「お疲れ様」と声をかける。



そして心の中で「ごめんね」とも。




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