史上最強お姫様の後宮ライフ覚書
そう。先ほど謁見の間で、リスティーヌはこの男を見かけていた。
「…ふぅん。それにしても、これはまた可愛らしい…」
まじまじと彼女を観察するその瞳は、まさしく高貴な輝きを放つ黒曜石。
セルスト王族の血を色濃く引くものにしか現れないその色彩を見れば、彼が何者なのか自ずと答えは出てきた。
「フューレ殿下…この手を離しては頂けませんか?」
とりあえず、そう言ってリスティーヌはいつの間にか自分の両肩に置かれた手を一瞥した。
正直、彼女としては「女神の噴水」以外にも見てみたい場所は沢山あるので、こんな所で時間を掛けている場合ではないのだ。
それに、余り長いこと出歩いて居るとセレーネにも多少は申し訳ないという気持ちが湧いてくる。
「あれ?僕の名前、知っているんだ…じゃあ、話は早い。」
しかし、フューレはにっこりと笑ったまま彼女を壁へと追い詰め、片手を壁につく。
そして、覆い被さるように薄い唇をリスティーヌの耳元へ近づけたかと思うと、吐息混じりの声で甘く囁いた。