黄昏色に、さようなら。

私には、この事故の後、約三か月間の記憶がない。


救急隊が到着したとき、事故車の中には既に息を引取った父と母の亡骸しか残されてはおらず、私の姿はどこにもなかった。


もちろん、『孫が乗っていたはず』との祖父母の懸命な訴えから、車から投げ出された可能性も考慮され、事故現場周辺も隈なく捜索された。


でも、やはり、私が居た痕跡は見つからず、


あの事故車から自力で脱出するのは、物理的に不可能なことから、


私が『初めから車に乗っていなかったのでは?』という推測もされた。


でも確かに、車の後部座席には、私の流した大量の血痕が残されていた。


おそらくは、致命的な失血だと予想されるほどの、おびただしい量の血痕が。


家出だ、誘拐だ、神隠しだ、


果ては、UFOに連れ去られたのだ、などとさまざまな憶測が飛び交い、


『事故車から消えた娘』と、しばらくは新聞や週刊誌を賑わせたが、それも徐々に人々の記憶から薄れかけていた三か月ほど経ったある日。


自宅の自分のベッドの上で、まるで何事もなかったように『無傷』でスヤスヤと眠っている所を、部屋を掃除に来た祖母に発見されるまで、私は行方不明だった――。

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