黄昏色に、さようなら。


人間、お腹がいっぱいになると、とたんに平和主義者になるみたいで、


さっきまで、なんて言って純ちゃんを問い詰めようか息巻いて考えていたのに、すっかりそんな気持ちが薄らいでしまった。


ああ、私って、つくづく日和見。


お弁当を完食し終えてすっかり満腹になった私は、温かい日差しを頬に当てながら、『自販機でお茶でも買ってくるんだったなぁ』と、のんびりと考えていた。


確か公園の入口にあった気がするけど、戻って買ってこようかなぁ? 


なんて思っていたら、


まるでそれを読んだみたいなジャスト・タイミングで、膝の上にペットボトルのお茶がポンと投げ落とされて、ギクリと固まった。


「ほら、お茶」


「え……?」


あっけにとられて手に取ると、まだ充分に温かい。


今、純ちゃん、このお茶をどこから出したの?


ずっと手を引かれていたんだから、途中で買ったんじゃないことは分かってる。


これじゃ、まだ温かいお茶が、『どこからか突然湧いて出た』としか思えない。


言葉にできない疑惑が不安を増殖させていく。


何だか怖い。


ここから先に踏み込んだら、二度と戻れないかもしれない。


背筋を這い上がってくるのは、そんな未知の領域に足を踏み入れるような、恐怖感。


このまま、この場所から逃げ出したい衝動を、ペットボトルを両手でギュッと握りしめてどうにかこらえる。


「……なあ、風花」


ため息交じりのつぶやきが落とされ、


いつの間にか、自分も手にしていたペットボトル入りのお茶を、純ちゃんはぐびっと一口口に含んで、遠くを見るように目をすがめた。

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