時雨の奏でるレクイエム
幻獣界カタレイン
音があった。りぃぃぃいんという澄んだ音。
それが、自分が大地を踏みしめた音だと気づいたのは自分の姿を認識したときだった。
銀狼。そう呼ぶのがふさわしい。
ぐいっと視線を前に移すと、わかっていたとはいえ、やはり圧倒的な光の色の奔流があった。
人のうちに見えていた色なんて取るに足らない、七色の虹は12色の色で彩られている。
半分近くが初めて見る色だった。
他の幻獣はあの色になんという名をつけたのだろうか……。
広く果てしない草原は風に揺らいで柔らかく音を鳴らす。
うずうずと身体の奥で興味が燻った。
そして、駆け出す。
力が湧く。
きっと今は誰よりも速く走っている。
この圧倒的な開放感は人間だったときには味わえなかったものだ。
こんなに素晴らしいものだなんて。
そんなの全然知らなかった。

「そうか。ここが、幻獣界……」

ふわりと風が銀狼を包み、その次の瞬間には銀狼は人の形をとっていた。
銀灰の髪、紅い瞳。頭の右半分は陣が縫いこまれたベールで覆われていて見えない。
身体は白銀の衣に包まれている。袖は広く、裾は長い。露出は肩だけで、その肩にはラディウスの名前を表す詞が蒼い光を纏わせていた。
その衣は袴に似ていて、だけど違うのはそれがたくさんの布でできた、特別な造りのいわば制服のようなものということだ。
幻獣にはそれぞれ役割がある。
ラディウスの場合は神の声を聞く巫女、この場合は神子だろう(嵌りすぎて笑えない。)。
そう考えると、これは確かに、神官の衣に似ている。

「さて」

ラディウスは天を仰いだ。
クルーエルはどこにいるのだろう。
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