時雨の奏でるレクイエム
最初に感じたのは浮遊感だった。すぅっと落ちていく感覚。
それから慌てて翼を動かし、それでようやく自分が幻獣本来の姿になっていることに気がついた。
緋色の鳥。翼は大きく力強い。
空は広く、地上は遠い。
もっと高く行ってみたくて、クルーエルは翼を大きく羽ばたかせた。
上昇気流を捕まえて、高く、高く昇っていく。
終わりなんかなくて、色も鮮やかで、あたたかい。
風はどこにでも連れて行ってくれる。
苦しくなるまで高く昇ると、クルーエルは力を抜いてまっ逆さまに落ちていった。
地上に落ちる寸前、風がクルーエルを受け止め、包んだ。風がどこかへ行ってしまうと、クルーエルはしりもちをついて空を見上げた。
しゃらんっと澄んだ音がする。
見ると、クルーエルは人の姿をとっていて、衣の袖に平らで楕円形の銀板がずらりと飾られていた。
髪が少し長くなっているようで、俯くとはらりと一房落ちてきた。
ノースリーブの短いワンピースのような緋色の着物に黒いスパッツ、白いニーソックスにワンピースと似たデザインのブーツ。
髪を触ると、そこには確かにラディウスからもらった髪飾りがあって安心する。
翼は腰より少したかい位置に細く、小さくなってぱたぱたと動く。
うなじにかすかな熱を感じ、クルーエルはそこに自分の幻獣詞があると知った。
どんな詞か、興味があったが見られないのだからしかたがない。

「ここはどこなんだろう……」

クルーエルは辺りを見渡した。
広い草原で、見える範囲に他の幻獣はいない。
恐らく、ここは光の幻獣王の影響が強い地域だろう。

「ラディウス、どこにいるんだろう」

そうクルーエルが呟いたとき、目の前の空間が歪んだ。
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