時雨の奏でるレクイエム
「幻獣、王!?」

それは、ディランが召喚せんとしていた幻獣だ。
この世の光を司る、幻獣の王。

「私だけだと、行けないの。生きるために、会いにいかないといけないの」

「生きるため?」

「うん、だれかと……そう約束したの」

「だれか?憶えてないのか?」

少女は胡乱な目をした。
銀色の瞳が曇る。

「憶えて、ないの。夕焼け色の瞳の預言者と一緒に幻獣王のところに行かなきゃいけないということと、私の名前だけ」

「預言者!?」

どうして、こんな街人が預言者の存在を知っているのか。
ラディウスは疑った。
あの国王は自分を殺すために暗殺者を用意したのではないかと。
たしかに、それなら、記憶喪失というのも頷ける。
そう言ったほうが、余計なことを言わずに済むし、同情も誘える。
――引っかかるか。俺は、まだ死ねない。
とりあえず、騙されたふりをして、油断を誘おう。
殺されそうになったら、返り打ちすればいい。

「預言者がどうしたの?」

「いや。なんでもない。でも、なぜ預言者を必要とする?」

少女は瞳を輝かせた。
そこには、殺意ではなく、希望があふれている。
ラディウスは混乱した。
暗殺者は、殺意を隠すのが得意だ。
だけど、瞳の奥には必ずそれが存在しているはずだ。

「預言者が幻獣王の居場所を知っているからだよ!ね、あなたが、預言者なんでしょ?」

「どうして……そう思う」

「だって、そんな気がするから。疑えないくらい……。リリス様の存在を感じるから」

「リ、リス……。わかるのか?」

「わかるよ。私も幻獣だもん」
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