時雨の奏でるレクイエム
夜明けが、コウサの砂漠を黄金色に染める。
その光景はなかなか美しかった。
ラディウスは、昨晩のことを思い出した。
自らも、幻獣憑きだという、クルーエルの話しだ。
だけど、腑に落ちない。
クルーエルは、結界の幻獣の召喚師でもあったはずだ。
なのに、幻獣憑きでもあるという。
そうなると、クルーエルには二つの属性を持っていることになるのではないだろうか。
しかし、幻獣に詳しくも無い自分がいくら考えたところで答えは出ないと思い、ラディウスはしばらくそれを保留することにした。


ラディウスは自らの手のひらを見つめた。
昨日、クルーエルが抱きついたとき、自分は何を想ったのだろう。
幻獣が歓喜したのはわかる。
でも、自分は?
自分は、クルーエルのことをどう想っているのだろう。
混乱した。自分のなかに二つの意志がある。
それを感じると、その二つが一つに混ざるような錯覚を感じる。
実際、もう預言の幻獣リリスの魂と自分の魂は融合寸前まで絡まってしまっているように感じる。
だから、昨日、クルーエルの背中に腕をまわし、その小さな肩に顔をうずめたとき、喜びと安心を感じたのかもしれない。
でも、それだけだ。
リリスの愛情が、クルーエルに向けられたものではないと感じ取ったとき、無理やり、リリスを封じこめた。
このままだと、自分が自分でなくなってしまうような気がしたから。


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