時雨の奏でるレクイエム
夜明けの旅立ち
ラディウスはテラスに寄りかかると、肩越しに帝都の夜景を眺めていた。
魔法を使った影響からか髪が腰の辺りまで伸び、結びなおすのも面倒なので放置している。
切らないのか、クルーエルに聞かれたが切るつもりはない。
明日の朝にでもラディウスとクルーエルは王都に行くことになっている。
もし今、神殿の神官になった(と思われている)第二王子が戻ってきたら民の間に動揺が起こるだろう。
そして、父王は、今度こそラディウスを殺しにかかるに違いない。
やられたらやり返すことはためらわないし、もしものときは殺してもかまわないと思ってはいるが。
そういえば、とラディウスは思った。

「兄さまは元気だろうか……」

思わず口にでた言葉にラディウスは驚いた。
自分は、八つ当たりとはいえ、兄ディランを恨んでいたのに、許すどころか心配するようになるくらい毒気を抜かれているではないか。
何故、とラディウスは考え、すぐにその理由を思い当たり、小さく微笑んだ。
――クルーエルがいたからか。
この旅で、他愛無い話しをしたり、一緒に狩りをしたり、ときにはモンスターを倒したりして生きてきた。
それは王族の自分にとっては新鮮で、楽しくて、かけがえのないものとなっていたんだろう。
ならば、自分は旅をする理由はなんなのだろう。
最初は復讐だけを目的に、力と資金を蓄えるための旅だった。
クルーエルと出会ってからは。
……出会ってからは?
最初は、戦力として、だんだん家族のように思えてきて、そして今は唯一無二の存在になったクルーエルは……。

『幻獣王を探しに行こう』

――生きるために。生きる場所を探すために。
ラディウスは全部思い出して笑った。
決まってる。とっくに、見つけていた。
でも、そのためには、後顧の憂いを断ち切るべきだろう。

「王都、闇の幻獣王、兄さま」

ラディウスは紅い隻眼で遠くの空を睨んだ。

「待ってろ。疾く、疾く砕いてやる」
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