時雨の奏でるレクイエム
紅色の記憶
使用人らしい女性に案内されて、二人は謁見室に通された。
ラディウスは居心地が悪そうにしている。

「どうしたの……?」

クルーエルは心配そうにラディウスの顔を見つめた。
ラディウスは決まり悪そうに苦笑して、なんでもない、と応える。
ここは、ラディウスが父に追放の旨を伝えられた場所であり、そのためあまり良い気分ではなかった。

ぎい、と扉の開く音がした。
二人は頭をさげて、入ってきた人物が通りすぎるのを待つ。

「もういい。頭を上げてくれ」

二人は頭を上げて少し離れたところにいる人物を見る。

「っ!!」

クルーエルとその人物が、同時に息を呑んだ。

――本当にそっくり。
違うところは、瞳の色くらいだ。
だが、その人物、ラディウスの兄の方は少し柔和な雰囲気がある。
白銀の詰襟と、同色のマント。ラインは青でまとめられ、どこかの騎士団長、といった風貌だ。

「名は、お前の名はなんだ?」

ラディウスの兄、ディランは声を少し震わせながらラディウスに話しかけた。

「ラディウス。そしてこちらがクルーエルです」

ラディウスに紹介されて、はっとしたクルーエルは慌ててお辞儀をした。

「あとで、話しがある。オリビン」

「はい。ディラン様」

ディランが呼んで出てきたのは案内されていたときにちらほらと見えたメイドだった。
オリビンと呼ばれたメイドもまた、赤い瞳を持っている。
ただ、その赤は、ラディウスとも違う、オレンジに近い赤だったが。
ディランはオリビンに何かを耳打ちして、それに応えたオリビンは二人のいるところに来た。

「これからしばらくこの城に滞在してくれ。部屋はそこのメイドが案内する。なにかあったときも彼女を使うといい」

ディランはそれだけ言うと、謁見室から出て行っていまった。

「それでは、案内させていただきます」

クルーエルはなんだか喉に小骨がささっているような違和感と不快感を感じた。
なんだろう、と思うと、嘘のようにそれは消えてしまったので、深追いすることはなかった。
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