時雨の奏でるレクイエム
クルーエルに飛ばされたのは人のいない庭だった。
それなりに広さもあるので、剣を振り回すにはうってつけだろう。

「名乗れよ、お前」

ぶすっとしてディランが乱暴に言った。
人がいなくなって外面を気にする必要がなくなったのだろう。

「剣がある程度できるようなら名乗ってやるよ。どうせこの名は起爆剤になる」

そう言ってラディウスは地を蹴った。
長い剣は地面すれすれをとび、下段から振り上げられる。
ディランはそれを横にした一般的な特徴の剣で守る。

「っくぅ……!」

ディランの顔が苦痛に歪む。
しかしラディウスはそのまま返す刃でディランの着ている鎧を突いた。
牽制用の攻撃だったがそれでもぐらっとディランの体制は崩れる。
ラディウスはそこでとんっと後方に跳ねて間合いを取った。
その間にディランは体制を立てなおし、ラディウスに向かって走り出した。
右斜め下から、八の字を描く様に左斜め上から、十字を切るように剣の動きを楽に、そして確実に連携させてラディウスを斬りつける。
だがラディウスも身を引いたり剣であしらったりとその攻撃を易々といなした。

「勝てないな、あんたは」

「なん……だとっ」

体力はあるのか息はあまり弾んでいない。

「まあでも、半年でこれならさすが、だと思うよ」

「なっ!なぜお前がそんなことを……」

ラディウスは眼帯を結ぶ紐を解く。

「でも、俺の敵じゃない」

赤い瞳がそろってディランを写す。

「14年も剣を降り続けた俺に、敵うなんて思わないでよ。兄様」

ディランははっきりと辛そうに顔を歪ませる。

「あ、頭が……割れるように……!お前、は」

ラディウスは剣を中央に構えた。
それは、ディランがしていたのと同じ構え。

「俺の名は。ラディウス・ウィズ・クラアルディーナ」
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