時雨の奏でるレクイエム
「追いついた。ううん。追い詰めた、かな?」

とん、と軽快な足音を立ててクルーエルは魔方陣から降りた。魔方陣はそのまま消滅する。

「それは早計ですわ。クルーエル様」

「だろうね」

あっさりとクルーエルは言い切る。

「ここに来たってことは、ここでは何かが出来るってことなんでしょ?」

「ええ。そうですわ。さて、クルーエル様後ろの警戒が手薄ですわよ?」

クルーエルの額に汗が流れる。
表情に余裕はなく、たかたかといらついたように靴をならすだけ。
わかってる。
後ろにいる大きな存在のことは。
これでも幻獣憑きなのだから。

「おいで」

オリビンの声で後ろにいる存在が跳躍したのがわかった。
びくっと身をすくませたクルーエルの頭上を軽々と飛び越え、オリビンのもとへ降り立つ。
それは、猫だった。
大型犬ほどもある、灰色の猫。
オリビンはそのふさふさした毛並みに頬擦りして、愛しそうにその幻獣をなでる。
その、闇に落ちた幻獣もまたオリビンに懐くように目を細めた。

『オリ。コイツ、幻獣王の子供だよ』

「あら。クルーエル様も幻獣でしたの?」

「私は、まだ……」

「幻獣憑きですのね。それなら、私にも勝機はありますね」

「ないね」

クルーエルは即座に断言した。

「勝てる道理があるはずない。『従いなさい、猫』」

『にゃあ!!?』

がくっと記憶の幻獣の膝が折れ、お座りの姿勢になる。

『にゃぁ。むかつく。記憶を喰ってもいい?オリ』

「許可します」

「無駄だってば」

きぃぃんと、金属のこすれるような音をして結界が震えた。

「私に干渉するのは不可能だよ」

『にゃ……ま、まさか』

「私もね。もうほとんど幻獣化してるの。お兄ちゃん、ここに未練ないからさっさと出て行きたいんだね」

クルーエルは猫を睨んだ。

「ノインが司るは『音』。私は音を全て支配する」

かつんっとクルーエルの靴の音がいっそう高く響いた。
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