時雨の奏でるレクイエム
『にゃぁんっ!!』

どさり、と猫はその巨体を床に押し付けた。

「ああ!!ヘルっ」

オリビンは猫に駆け寄ってその首を抱いた。

「何をなさったんですか!?」

「ちょっと記憶を返してもらっただけだよ」

『うにゃぁ。力がごっそり持ってかれちゃったよぉ』

「オリビン……どうして、こんな、こんなことするの?」

「クルーエル様……」

「闇の幻獣王を召喚したら世界は滅んじゃうんだよ?バランスを崩して何もかも壊す必要が、どこに……」

「必要、でしたのよ。これは正当な復讐なのですわ」

『オリ!!』

「こんな世界、神が定めた世界なんて一度滅んでしまえばいいのです。神のせいで私は、弟の名前すら呼べない」

「神……」

クルーエルの胸を燻らせている言葉を聞いて、クルーエルは動揺した。
クルーエルの存在意義であるところの神。
幻獣王ですら及ばない、この世の絶対の存在だ。

「でも、間違えてるよ、オリビン。貴女は、一人じゃないんだ」

クルーエルは両手を伸ばした。

『解せよ』

とたんにクルーエルとオリビンの間に手のひらサイズの魔方陣が生じた。
否、元からそこに存在していた。

「オリビンがここを選ぶことはわかってたんだよ。ラディウスが視たから。だから私も、夜のうちにここに細工をしたんだ」

クルーエルは、くるくると回り、発光する魔方陣を指して言う。

「これはね。伝声用の、魔方陣なの」

『オリビン姉様!!』

二重の声が魔方陣から発せられた。
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