教室バロック
教室に入って、また爆笑した
西郷さん役の花さんが
これでもかって程、
太いマユゲを描いていたからだ
「 エエッ?!
もっと太く書くの?!花さん!! 」
黒のアイラインを握ったまま
ウチのクラスの女子達が
ゲラゲラ笑ったまま
床に何人も倒れ込んで悶絶している
「 当たり前よお!
こういうのはね? 恥ずかしがって
中途半端に描く方がカッコ悪いの! 」
花さんはそう言うと、
鼻歌を唄いながら勇ましく
自ら鏡に向かって、
ちょっとタレ気味の太いマユゲを更に、
書き足して太くして行く
花さんとオレはこの後
衣裳をつけたまま、
校庭を軽く宣伝して歩く事になっている
「 …なあ、花さん 」
「 ん? あ!空哉くん!
そこのカツラ取ってもらえる? 」
「 …今日もしかしたら
カレシの松田さん?
見に来るんじゃねえの? 」
途端に、花さんの顔が固まる
「 こ…来ないって言ってたわよ?
し、仕事忙しいし… 」
「 わかんねえぞお?
オレならイカネ。っつっといて
絶対来るね
なんたって、
カワイイ彼女の晴れ舞台だもんな 」
笑いながらも
『花さんイジメるな!』コールを
始めた女子達と
オロオロする花さんから逃げた
窓際では
国語のじいちゃん先生が
金具の額あてをつけ、頭の後ろで縛り
袴をはかせてもらってご満悦だし
近藤役の、ひとし
ヤツは野球部のサードで
顔が近藤勇に激似だ
ちょうど今、水色の羽織りに袖を通して
皆が『 おお!マジ似てる!』と
叫んでいる
「 ―― やっぱすげえなあ この学校 」
「 那智 」