教室バロック
「 …空哉! そろそろ出番! 」
「 了解! サンキュー! 」
「 がんばれよ 」
「 一瞬だけだっつーの 」
汗だくの顔で笑いながら、
照明の健がジュースを掲げる
教室上部の袖には
二台のデッキをいじる、三野輪の姿
舞台上では、まだ近藤は見付からず
何故かどこにでもいる謎の南蛮人
Mr.スミスが登場し、
英語のナゾナゾを出すたびに
新撰組の珍解答が繰り広げられ
観客席から笑い声があがる
斎藤役の山瀬は
日本舞踊を習っている事に目を付けられ
人が足りないと、置屋に引っ張って行かれ
舞妓姿で踊るシーンがあったり
沖田が子供と遊び始めて
自分まで迷子になってしまったり
隊員が、街の中を廻りながら、
近藤を捜す流れの中で、人々と触れ合い
結局、土方が近藤をみつけて
京を守る決心を、最後に全員で誓う
――― そんな明るい内容
だけどホントは
真田が考えていた、
もう一つのシナリオがあった
近藤は、迷っているのではなく
Mr.スミスを ずっと捜していたのだ
以前、橋の上でぶつかった時に
彼が落して行った一冊の
―― それは『 新撰組 』の本
わからない字もあったけれど
読み取れた確実な事は
予想だにしない、組内での規律の強化
それによって生じる内乱
芹沢暗殺、山南、沖田の死 ――
自分は逃げ出そうと、偽の名前を言って
顔を知っている者が敵方にいてバレ
後に断首と書かれてあった
これは、ホントの事なのか
絶対に自分は、
そんな事をするワケがない
本に挟まれていた写真には日付と
見た事もない日本の景色
刀など誰も挿してはおらず
そこにはたくさんの
南蛮服の子供の笑顔が写されていた ――