それでも君が好き
澪は職場の病院に着いた。柏木総合病院である。ここの病院の院長、柏木総一、42歳、ちなみに独身男性であるこの院長が澪の腕を惚れこみ、そのきっかけで澪はここの病院に雇われることになった。勿論、それだけではないのだが。それはまた別の恋物語である。雇われる前は小さなクリニックでも開こう、所謂、開業医をしよう、と思っていた。しかし、院長の声がけで働くことになった。

更衣室で白衣に着替えてい医局に向かい、書類を手に取り、そして、ナースステーションに向かう。申し送りが始まる。

「おはようございます。」

「あっ、秋川先生。おはようございます。」

新米、古株達は澪を慕っている。口々に、秋川先生、秋川先生、と挨拶をする。

「あ~き~か~わ~センセー。今日は当直ですかぁ?」

看護師の野宮慶次が最後に口を開く。この野宮慶次という男は28歳にして看護師長を務めている。男性で看護師長を務めるのは珍しいが、ここの病院では珍しくはない。腕が良い者は上へといく。それは院長の考えである。例え若くても実力が備わっていれば、上にいける。

「野宮君は相変わらずだなぁ。今日は当直だよ。」

微笑みながら慶次に答える。

「あー、その相変わらずって何ですかぁ?ひどいなぁ、もう。これでも師長ですよ?」

少しかっこつけて柔らかく微笑んで話す。

「『これでも師長ですよ?』って、かっこつけてんじゃないわよ。ばかじゃないの。」

慶次の同僚、笹川美咲が慶次の頭を軽く叩きながら言う。

「秋川先生もこんな奴、叩いちゃっていいですから。」

「まぁ、まぁ。美咲ちゃん、落ち着いて。」

「そんなにカリカリしてたら、旦那さんに嫌われちゃうよ?」

「うるさいわねっ!あんたには言われたくないわよっ!」

バシっと叩く。幼馴染みたいに仲が良く見える。これは慶次が作り出す職場の雰囲気でもある。暗い雰囲気だと患者さんの病気が余計に悪化するかもしれない、と思っているみたいで。雰囲気が明るいと患者さんの状態も良くなる、そう思っている。その雰囲気が澪も好きで、他の同僚も気に入っている。

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