ラプンゼルの指輪
(なんだ?)
馬を見上げると、そこに乗っているのが美しい女性だとわかった。
絹のような艶やかな金髪は真っ直ぐ伸び、高い位置で結っている。
身体つきは正に女の憧れのように、出るところは出て、締まるところは締まって、黒い短パンから覗く脚は白くスラッとしていて、見るものを魅力した。
睫毛まで金に輝くようにまばたきをするたび揺れ、紅く色づく唇はその人をますます引き立てていた。
ストンと馬から華麗に降りると、彼女は花が咲いたように微笑みかける。
「あぁやはりっ!良かった、ここを通りかかって…」
ほっとしたように息を吐き出す彼女に、紗羅は怪訝な顔を向けた。
「まったく、2年もこちらを留守にして…どれほど心配したと」
「あんた、誰だ?」
「…………な、なに?」
いや、もっともなことを紗羅は言ったはずだ。
なのに、なんだこの驚きようは。
その綺麗な顔を崩して、意味がわからないと訴えかけてくる。
「に、2年の間に、私のことをわわ、わす、わす、忘れてしまったというのかっ!?」
「たぶん人違いだろ」
じゃあな、と手を振って背を向けようとした。
あくまで、したである。
実際は金髪美女にがっしり肩をつかまれて、できなかったのだが。
(なんなんだ、一体っ!)
うるると青海色の瞳を潤ませながら、彼女は紗羅を見詰めた。
なぜだか、1人で納得しはじめて、だからかなんてうんうん頷いている。
そして言うのだ。
「もしかして記憶を無くしてしまったんだなっ!……――サヤっ」
まさかと、聞き間違いかと思った。
彼女が呼ぶ"サヤ"は、紗羅が知る"紗夜"であるのか分かりかねる。
ただ、それならその2年という月日にも合点がいくのだ。
「なぁあんた、もしかしてそのサヤって…」
一つ深呼吸をすると、彼女の瞳をしっかりととらえた。
「名取 紗夜(ナトリサヤ)のことじゃねーか?」