青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
「へいへーい! 僕ちゃーんを無視しないでよぉ」
ニッタァと笑みを浮かべるワタルさんは右の手の平で相手の拳を受け流して、左の手でお返しのボディブロー。
向こうは受け流せなかったみたいで、物の見事にワタルさんの痛恨の一撃を腹部に受けていた。
眉根を寄せて後退する魚住は、
「腹は反則じゃろ」
余裕なく皮肉ってニヤリ。
負けん気だけは強いみたいで、元親友のワタルさんに向かってシニカルな笑みを作っていた。
思うことはあるけど、今は通路を塞ぐことが優先。
「任せました!」
俺はワタルさんに後のことを任せて(「リョーカイ」と能天気な声が聞こえた)、通路に向かって駆けた。
お次に出てきたのは赤髪の副頭さん。
俺の顔を見るなりクスリと笑ってくる……おい、失礼な奴だな!
人の顔を見るなり笑ってくるとか、真面目に失礼だぞ! 俺の顔が面白いかい? へーい、何処にでもいそうなお顔だってのにな!
取り敢えず、顔のパーツ、遺伝子は父さんと母さんのものだから、俺の両親に謝れ! 土下座して謝れ!
「習字男……ククッ……習字伝説……ククッ、ゲッホゲホ」
ンマーっ! そういえばアンタは笑い上戸でしたね、顔に似合わず!
だがしかし、油断すると痛い目を見るだろう。
なんてったって向こうの副頭なんだぜ?!
喧嘩は相当なもんッ、ほっらぁきたぁあ!
俺は急いで跳躍、後退、回避、飛んでくる蹴りに怖じる。
ソファーを乗り越えて長方形の硝子テーブルに回るけど、めちゃめちゃ素早いよ笑い上戸の副頭さん! テーブルに乗り上がって追い駆けてくる!
こっちもテーブルに乗り上げて逃げたいけど、テーブル上には空きのビール缶や菓子類が乗っていて意外と邪魔! 乗り上がれない!
それと一つだけツッコませてくれ、ビール缶とか……日賀野チーム、アンタ等全員未成年だろ!
空気を裂くように飛んでくる拳に急いでしゃがんで避けるけど、向こうの判断は的確。左足が飛んで来た。
マジかよ今度こそやられるっ!
そう思った瞬間、ドン――真横から衝撃。力強く押されて勢い余った俺はソファーに顔面から突っ込んだ。
アイタタタッ、助かったけど今のは……ダッセェ!
ついでに誰が助けてくれたんだろ?
顔を上げれば、ソファーに飛び乗っているシズの姿。
助かった、我等が副頭のお出ましだ!
シズは眠そうに欠伸を噛み締めながら斎藤を見据えている。
途端に冷静を纏う斎藤は目を細めて、シズにガンを飛ばしていた。
笑い上戸でも場は弁えるみたいだ。
フンと鼻を鳴らしてシズに悪態。
「お前がチームの副頭か」
「ふぁ~…ああ一応……おまえっ!」
グシャリ、向こうの副頭さんがテーブルの上の菓子を踏んだ。
それはコンビニで売っている個包装されたプレミアムのロールケーキみたいだ(しかも未開封)。キャツが踏むその瞬間を目撃したシズは一変。
眠気なんて吹っ飛ばして、
「なんてことを……」
どれだけ非情な仕打ちだと思っている、なんぞと吐き捨て相手を睨む。
それがどれだけ美味いか知っているのか、唸り声を上げている我等が副頭シズ。
あーそういえば……シズってよく食べよく寝る子だから食べ物に関しては饒舌になる子だっけな。
ということは、シズにとって向こうがした行為は。
「食べ物を粗末にする。それがどれだけ……愚かなことか! 今すぐその足を退けろ。ロールケーキが悲鳴を上げている!」
……あのシズさん。
「ん? ああ、邪魔だな」
斎藤はシズの心情を知ってか知らずか、ぞんざいにロールケーキを一蹴り。
無情にも潰れたロールケーキが床に転がる。
その瞬間、田山は聞いてしまった。
シズの堪忍袋の緒が切れる音を。
我が副頭は携帯のバイブレーターのようにブルブルと震えて怒りを露にした。
「コンビニで1個150円のプレミアムロールケーキを蹴り飛ばすとは……自分の前で蹴り飛ばす。お前だけは……お前だけは」
「噂には聞いていたが随分と食い意地が張っているな。たかだか菓子如きで怒れる。馬鹿だな。ククッ……ロールケーキに怒れる男……ククッ」
「笑い事ではない。ロールケーキの美味さを知らないくせに。お前だけは自分が仕留める。ロールケーキを侮辱した仇、必ず晴らす。ケイ、此処は任せろ!」
「……うん、任せた。頑張って仇をとってくれ」
なんか状況的に間違っている気がしないでもないけど、此処はスルースキルだ俺! 一々ツッコんでたら身が持たないぞ!
俺はロールケーキの無念を晴らそうとするシズに向こうの副頭さんを任せて駆けた。