青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
白眼視する俺を余所に(いやそうしたくなるのは自然現象だろ?!)、帆奈美さんはヨウに首筋に抱きついてガッチリホールド。身動きを取れなくした。
「クソっ!」
ヨウは退けと帆奈美さんに悪態を付いて、肩を押しているけど本気じゃないことくらい一目瞭然。女相手に本気が出せないんだろう。
しかもヨウにとって元セフレだぜ?
そりゃ手荒なことをしたくないだろうよ。
ヨウは今もどこかで帆奈美さんに恋心を抱いているみたいだしな。
ヨウがもだもだしている間に、んでもって俺が日賀野に目を放している隙に通路から忙しい開閉音。
あ、やっべぇ。
協定を結んでいる不良が援軍として呼ばれたみたいだ。
隙を見た日賀野はあっという間に通路を潜っていく。
ちょ、お前、帆奈美さんを置いて行っている! 敵さんにセフレを任せていいのかよ! 仲間もあっちゅう間に通路の向こうに消えているみたいだし、帆奈美さんだってこんなところでボッチにさせられたら不安じゃ……。
だけど帆奈美さんはどこ吹く風でヨウの動きを封じていた。
妖艶に綻んで、ヨウの唇に骨張った人差し指を当てる。
「ヤマトの邪魔はさせない。私と時間を過ごす。ヨウ、私の相手する」
「寝惚けたことを言うな。俺はテメェみてぇなオンナがいっちゃん嫌いだ。誰彼ホイホイ男について行きやがって。
大体テメェな、ヤマトのセフレのくせに俺とこんなことしていいと思うのか?」
責め立てを口にして片眉根をつり上げるヨウだけど、
「どう思われても構わない」
帆奈美さんは本気を宿した眼を元セフレに向けた。
自分を受け入れてくれた男のためなら小汚い女だと思われても一向に構わない。
すべてこちらが勝つためだと、帆奈美さん。
何を捨ててでも今のセフレに一旗挙げさせる。
それが自分の存在価値そのものだって綺麗に笑った。あまりに儚い笑みだった。
「私、本気だった」
帆奈美さんはヨウが好きだったことを真摯に告白。
これだけで十二分にヨウを動揺させたけど、彼女は追い討ちを掛けるように目尻を下げて言葉を上塗り。
「ヤマト選んだ。それは後悔していない。でもヨウ傷付けた。それは一生の後悔。それはホント。だけど私、自分が一番可愛い。二番目ヤマト。だからヨウを傷付ける」
「帆奈美……」
「私、ヨウの言うように誰彼男を求める、汚い女。だからできる。何でもできる。今でも貴方とキス、セックス、なんでも、できる」
小さく媚びた笑声を漏らして、完全に思考回路が止まっているヨウの唇を奪う帆奈美さん。
俺、ジミニャーノ田山圭太は完全にアウトオブ眼中なう。
ちょ、ヨウ! 動揺している場合じゃないんだって!
なんだかアダルトチックな展開になってるいけど、俺達の目的は日賀野達を潰すことだ!
貴方とチューしている人は敵さんだって敵!
部外者の俺が入っていいかどうか分からないけど嗚呼っ、ほらぁ、見知らぬ不良さん方がっ……!
「ヨウしっかりしろって! リーダー!」
俺の呼び掛けに我に返る舎兄。瞳に意思という名の光が宿る。
これ以上、誘っても無駄だと分かったのか、それもとも十二分に時間稼ぎができたと思ったのか、帆奈美さんはパッとヨウから離れた。
「残念」
このまま淫らな行為に縺れ込もうとしたのに(俺がいるのにスるつもりだったのかよ?!)、アイロニーを含む台詞を吐いて俺の脇を擦り抜けると倉庫部屋から出た。
早足で乱闘と化している現場を過ぎって通路へ。
振り返って彼女の背を見送った俺は、帆奈美さんの心情を見透かせず後味の悪い気持ちを噛み締めていた。
なんとも悪女らしい台詞を吐いて行った帆奈美さんだけど、なんだか俺にはその悪女の部分が偽っているようにしか見えないや。