青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
さて、そんなことをしている場合じゃない。
俺は視線を戻して、軽くパニくっている舎兄に声を掛ける。
だけどヨウは帆奈美さんのことで頭が一杯になってるみたいだ。
「なんだってんだ」
苦虫を噛み潰すような顔を作って眉を寄せていた。
駄目だ、ヨウの悪い癖が出ている。完全に周りが見えなくなっている。
ったく、お前は我等がチームのリーダーなんだぞ! しっかりしてくれよ!
ええいっ、怒るなら後でたっぷりお小言聞くからな!
全国のヨウファンの皆様、ヨウ信者の皆様、イケメン好きの皆様、すんません、俺、田山圭太はやっちまいます!
地味くんだけど、不良でもないけどやるときゃやるしかない!
だって俺、ヨウの舎弟だもの! 怖いけどやるっきゃない!
俺はズカズカと舎兄に歩み寄って、手早く胸倉を掴むと平手打ち。乾いた音が倉庫部屋に響いた。
ちょ、手がイテェ!
叩かれた方も痛いだろうけど、叩く手も痛いんだぞ!
瞠目するヨウに「後でやり返してもいいから」俺は覚悟した上で打(ぶ)ったことを認めた後、目を開けてしっかりと気を持つよう一喝する。
こんなところで動揺をしている場合じゃない、俺はついつい苦言を零す。
「動揺をしているお前の気持ちを尊重してやりたい。
けど、今は優先することがあるだろう。このままじゃ仲間を失うぞ? またハジメみたいな犠牲者が出るぞ! もう後悔しないためにっ、終わらせるんじゃないのかよ!」
「ケイ……ケイっ、避けろ!」
「アブネッ!」ヨウの絶叫、ぶれる視界と体に受ける衝撃。
横に倒れた俺は倒れた痛みと体に受けた痛みの両方に思わず呼吸を忘れた。
やっべ今のは効いた。
すこぶる効果抜群。
背後から横っ腹を思いっ切り蹴られた。
相手の靴の先が横腹にめり込んだ。
身構えていなかったせいで余計……無防備だった俺も悪いんだけどさ。
ははっ、これもファンの多いヨウに平手打ちした罰か。
だったら重い罰だっつーの……いてぇ。蹴りってマジでいてぇ。
どうにか肘をついて上体を起こす俺の頭上から、
「ケイによくも!」
復活したであろうヨウの雄叫び。
喧(かまびす)しい物音に呻き声。
人間が転倒したことによって床が悲鳴を上げる。
倒れる衝撃で床に使われている木板が軽く弾んだ。
腹部を庇う俺の前で片膝を折って、「悪い」目的を見失っていたとヨウが真摯に詫びてくる。
おかげで目が覚めた、本調子に戻っているヨウはもう少しで向こうの心理戦に両足突っ込むところだったと苦く綻ぶ。
曰く、日賀野は自分の乱心を狙っていたに違いない。
帆奈美さんの行動もこっちを劣勢にさせるための策略。
もしかしたら彼女も本音も含まれていたかもしれない。
けれど今、話すべきことではないし、持ち出す話題でもない。何より向こうは策士、きっと乱心を狙っていたとヨウは苦笑した。
「柄にもなく動揺しちまった。悪い……ケイ、サンキュ」
そう思ってくれるなら俺も本望だ。ヨウに視線を投げて一笑。
だけど直ぐに視線を逸らしちまった。直視できねぇ。
「まだ怒っているのか?」
ヨウの不安げな声音に否定、
「諸事情で……」
俺は空笑いで返した。
「友達の官能場面を見たもんだから……今しばらく直視できない気がする」
「キスか? バッカ、あれくれぇなんてことねぇって。官能にも入らねぇよ」
「入るっつーの! ただのキスじゃなくて、ディープだぞディープ! おまっ、ディープキスを生で目の当たりにした俺の心情を察してくれよ! しかも……身近にいる友達の……」
「んー。免疫ねぇだけだろ? その内、ココロとす「わぁああああああ! 俺はまだ恋愛に淡い夢を抱いておきたいんです!」 わーった、わーったから。うるせぇな」