青騒のフォトグラフ―本日より地味くんは不良の舎弟です―
同着でロープが引き千切れ、鉄筋の束が頭上に降り注いできた。
「伏せろ!」
ヤマトは帆奈美の頭を下げさせ、勢いのまま体を押し倒す。
間一髪のところで鉄筋の束は帆奈美の拘束されていた場所へと降り注いだ。
叩きつけられる金属達の悲鳴に耳を傾け、二人は上体を起こしてその場を見つめる。
「頭でもかち割りたかったのかよ。あんだけの量をトラップにするなんざ……怖ぇ男だな」
「ヤマト、ありがとう。大丈夫?」
一歩間違えれば大怪我を負っていた。
敢えて自ら人質奪還の役割を選んだヤマトを心配する帆奈美だが、肝心の本人は、
「そういう礼は終わってからにしろ。ったく、易々と人質に取られるなんざ、メンドクセェことを……」
フンと鼻を鳴らすヤマトはさっさと立ち上がり、帆奈美を立たせた。
まったくもって素直ではない。帆奈美は微笑を零した。
その時である。
二人の視界に火の粉がぱらぱらと降り注いだ。
「おい、まさか」
ヤマトは頭上を見上げた。
そこには炎に包まれたロープ。
目で辿っていけば、ドラム缶辺りで屈んでいる先ほど追ってきた不良の姿。
五十嵐が自分達の目を盗んで、放置されていたロープに火を点けた。予備のトラップに火を点けた、というところだろう。
瞬く間に炎に包まれるロープとその脆さを見たヤマトは咄嗟にブレザーを脱ぎ、帆奈美の頭にそれを被せ、思い切り突き飛ばす。
瞠目する帆奈美が尻餅をついた刹那、舞う火の粉と目の前で降り注ぐ、無機質な金属たち。
ズルッとその場に両膝を崩す彼、青メッシュの入った不良に帆奈美は数秒絶句。
「や、ヤマト――!」
我に返ると大きな悲鳴を上げた。
それは倉庫の天井を突き抜けるような、大きな悲鳴だった。
その悲鳴はヨウにも、しかと届いていた。
「マジかよ。あの馬鹿……」
ナニをやっているのだと舌を鳴らし、ヨウは取り巻きの一人を蹴り飛ばすと一旦親玉に背を向けた。向かうは勿論“仲間”達の下だ。
「ヤマト! イヤ、起きる! イヤ、起きる!」
大量の鉄筋を退け、急いで下敷きになっているヤマトを引き摺り出す帆奈美はパニックに陥っていた。
「ヤマ……」
名前を呼ぼうとしても言葉が続かない。
彼の頭を触った途端、ぬるっと手の平に赤い体液がこびり付いたせいだ。
こめかみから大量の鮮血を流す彼、先方の喧嘩の傷が癒えていないか傷が開いたのだろう。夥しい量の血にますます帆奈美は冷静を欠かした。
自分を庇って怪我をしてしまった。
ヤマトが自分を庇って……嗚呼、どうすればいいのだ。どうすればこの血が止まるのだ。
取り敢えず、彼が火の粉から頭を守るために被せてくれたブレザーで止血しようと、それを患部に当てる。
そして彼の頭を膝に乗せ、帆奈美はヤマトを何度も揺すり起こそうと躍起になった。幸い、朦朧とだが彼に意識はあるようだ。
「ヤマト!」
必死の呼び掛けにようやく「いつも……テメェは」微かにだがヤマトは反応した。
彼は苦痛に顔を歪めながら、いつもどおりシニカルに笑おうと努める。
「そんな……情けねぇ顔をする。いつも……そうだ。いつも……困った……お姫さんだな。どうすりゃお前は泣き止んでくれるんだろうな。
まあ、泣き止ます相手は……俺じゃねえってことは確かだってことだよな……最初から分かっていたけどな」