チャンピオン【完】

小さい頃から自分の愛してきた硬派なプロレス団体が、お笑い路線に屈しようと言うのだ。


それは屈辱であろう。お兄ちゃん、可哀想。



年の離れた優しい兄貴。

トレードマークの眼鏡にスーツ姿でいると、プロレスなんて暴力的なことを好きそうには全然見えない。


身体が強くないから、大好きなプロレスラーにはなれなかったけれど、誰よりもこの団体を、プロレスを愛しているのは彼だ。


自宅、合宿所、寮、練習リング、ジムを兼ねたこのビルの維持費も大変だし、練習生の若い子たちの食事代だって馬鹿にならない。

その遣り繰りと相撲部屋のおかみさんのような役目を、ママが亡くなってからは一郎兄貴が一人でやっている。


パパが持病の腰痛で倒れ、いよいよ終わりだと思った。

もううちの団体はお金がない。

私も卒業後には女子短大に行きたい、とか言ってられない... と覚悟を決めていた。




だが何日か前に、風向きが変わった。

貴丸と言う名の有名選手がアメリカから帰って来てくれて、興行収入の明るい試合が組めそうなのだ!!

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