とある堕天使のモノガタリ
~INTROITUS~
海の中を下降していくと次第に薄暗くなった。
そこまで沖に出ていた訳ではないのに、まだ底は見えない。
どう考えても、やはり不自然だ。
その時、下の方がぼぅ…と光った。
あの光は…魔法陣!?
揺らめく漆黒の骨張った翼と黒髪が見えた。
『「フォカロル!」』
『だっ…だれ!?』
『「ウリエルだ。わかるか!?」』
『ウっ…ウリエル様!?
…なぜここに…』
明らかに動揺しているフォカロルに確信した。
こいつはやはり自分の意思で人間に害を与えている訳ではない。
『「お前、召還されてるな?
召還者はどこにいる?」』
『多分近くに…
ワタクシは…ワタクシは…』
悲しそうな目で俺を見るフォカロル。
『「わかっている。
お前の意思ではないんだろ?
だがお前は俺様の友人を手に掛けようとした。」』
『ど…どうかお許しを!!
召還者の命には逆らえないのですっ…
逆らえば…もう二度と天界に戻れなくなります…』
『「このまま愚かな召還者の言いなりでは、天界どころかタルタロス行きだぞ?」』
俺の言葉にオロオロしだすフォカロルに溜め息をついた。
『「では…お前の召還者に命を解かせればいいのだな?」』
『…それだけでは契約解除されません…
召還者は契約の“証”を持っているのです!
…それがある限りワタクシは…ワタクシは…』
俯くフォカロルを見つめながらしばらく考えた。
『「フォカロル…
お前の契約解除の件、俺様に預けてくれまいか?」』
驚き見開かれる紺色の大きな瞳を見据え、言葉を続けた。
『「召還者の特徴を教えろ。」』
『…若い…小柄な女性でした…』
俺は「わかった」と答えると海面を見上げた。
『…ありがとうございます…!!』
そんな声が聞こたような気がした。