【完】歌姫、そんな声で鳴かないで!
バスローブを脱ぎ捨て、泡の中へ身体を沈める。



色んな人に裸を見られたというのに、一つも恥ずかしくないのは何故だろう。



撮影が始まり、さっきのように、曲に合わせて動く。



まるで曲に入っていた月野森きららの魂が、私を乗っ取って動いているみたい。



勝手に泡を掬い、ゆっくり持ち上がる腕を、背中を見せるように起き上がる身体を、伏し目がちにバスタブに顎を乗せる顔を、カメラが追い掛ける。



いつの間にか歌詞を口ずさみ、意識に反して流れる涙さえ、カメラは逃さなかった。
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