君が教えてくれたこと
「唯ちゃん、始まったって」
豊平川の河川敷には、浴衣を着た沢山の人混みが見える。
「私も浴衣着たかったなぁ」

「由梨の浴衣姿かぁ。まぁ、パジャマ姿もレアだけどな」

「もう。何、言ってんの」
もうすぐ、花火大会が始まる。

会場へ行くことは出来なかったけど、二人で一緒に見られるだけで、僕は幸せだった。
「あっ!」
大きな音と共に、夜空に、花火が打ち上がった。
「綺麗」
病院の中でも、沢山の人が、花火に歓声をあげていた。
「よかったな。一緒に見れて」

「うん」

…唯ちゃんにも、見せてあげたかったね。

…きっと、見てるよ。
  


夜空いっぱいに、もの凄い数の花火が打ち上がり、静かになると歓声や拍手が起きる。
「唯ちゃん、もう長くないんだって」

「・・。」
「さっき、唯ちゃんのお母さんに会ってね。いっぱい痛い思いさせて来たから、もう楽にさせてあげたいと思ってたって。でも、私達に出逢えて、あの子は本当に明るくなったって。生きてることを、明日になることを楽しんでたって」

・・私「ありがとう」って言われた。何にもしてないのに・・

由梨の目から、ゆっくりと涙がこぼれた。

一言一言、一生懸命話す由梨に、僕は手を握る事しか出来なかった。
・・唯にね、お姉ちゃんが出来たんだよ!

ねぇ、ママ聞いてる?

唯ちゃんの訃報を聞いたのは、花火大会の翌日だった。

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