光と闇
青年は、名前を聞きながら服に付いた土を払った。
「ふぅん、魅楼・・・ね。俺は霧澄って言うんだ。よろし・・・は?」
霧澄(きりすみ)と名乗る青年は、握手を求めようとした。が、その動きが止まった。霧澄の顔を見ると、霧澄は魅楼の顔を見つめ、目を見開いていた。
「・・・お前、まさか。光の後継者」
迂闊だった。名前がこれ程までも広まっているなんて、と後悔した。
もし霧澄が兵士なら、霧澄は俺を、後継者を恨んでいるだろう。意味のない争いをさせられているのだから。
魅楼は、霧澄が向ける疑惑の目から逃れるように目を地面に向けた。霧澄は「嘘だろ?」と言っているようだった。その目を逸らしたのだから、その行動は、疑問の肯定の意味だ。
霧澄は途端に地面に目を逸らし、舌打ちをすると、何も言わずに去ろうとした。
魅楼は慌てて口を開いた。
「ま、待てよ」
霧澄は一旦足を止め、振り向いた。
だが、さっきとは違い、嫌悪感をこめた視線だった。
魅楼は言葉を失った。
結構年が近いと思った。最初は。だけど、今の霧澄は違った。まだ十六歳前後の青年が、こんな視線を向けられるのかと、自分の目を疑ったほどだ。
殺気が漂う、恐ろしい瞳。見ているだけで息が詰まる、息苦しくなる。体が金縛りにあったように動かない。
こんな目、見た事がない。
正直にそう思った。だが、魅楼はすぐさま悟った。
それは自分があまりにも世界を知らなかったからじゃないのか――
そう思うと、魅楼は悔しさでいっぱいになった。
傷だらけで戦う霧澄。辛いだろう。でもやめることさえ許されない。
もしかしたら霧澄よりも年下がいるかもしれないこの状況に、魅楼が城で過ごしてきた時間が恥ずかしく思えたのだった。
ならば、知りたい。
霧澄たちの生活、今の国の状況、そして闇の国との因縁。
後継者なら、知るべきじゃないのか。
知ろうとしなかった、それが俺たち後継者の咎ではないのか。
無言の場を息苦しく思ったのか、霧澄はため息をついて立ち去ろうとした。
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