トリップ
――――・・・
「何だこいつ」
「ガキはママの所に帰ってろって」
聞いたことの無い、意味のわからない日本語が少年に飛んでくる。中国語を覚えたばかりの3歳の中国人少年は、元々自分のズボンのポケットに入っていた一切れの紙を握り締めていた。
日本語で書かれていたので、彼にはほとんど読めない。唯一分かったのは、その紙に「檜 天李」という名前が入っていた事くらいだ。
少年は自分に日本語で何か言ってきた柄の悪い男達に問う。
「母在那冗?」
お母さんはどこにいるの?
そう聞いたつもりだったが、彼らは軽快に笑い飛ばす。
「は?何言ってんの?」
「意味ふだし!」
何を言ってるんだろう、この人たちは。少年は彼らから背を向ける。
「何だったんだろうなアイツ」
「ボロボロだったし、捨て子じゃねーの?」
「あ、そっか。おーい」
何となく声が聞こえたので、少年はゆっくり振り向く。
「お前、捨てられたのかー?」
「捨てられるって言うのはなー、『お前はいらない』って意味なんだぜー」
「かわいそー」
「はははっ」
何を言っているのか分からなかったが、幼い少年でもこれくらいは分かった。
自分は 明らかに バカにされている。と、それは言葉の意味が分かるようになってから思った事だが、ムッとした。