トリップ

少年が来てから3年後、彼は自然と日本語が話せるようになっていた。どうしてこんなにも物事を鮮明に覚えていられるのだろう、と少年自身疑問に思う。

「ただいまー」
「土岐!」

一番早く反応したのは少年。彼が未来には全く見せなくなった満開の笑顔を土岐に向ける。何故土岐は仕事の日に傷を作って帰ってくるのかが不思議だったが、それについて聞くと、彼は苦笑して「痛い仕事だよ」と言うだけだ。

「元気だなー、ちびっ子」

そう言われると、少年は頬を膨らまして土岐に言う。

「ちゃんと名前で呼んでよ」
「ああ、そうか。えっと、テンリだっけ」

自分の本名を聞くと、少年は本当に不機嫌そうな顔になる。日本語を覚えると同時に「捨て子」や「いらない子」の意味も知ってしまったからだ。

「そんな名前、もういらない」
「へ?」
「僕は・・・土岐に名前をつけてほしい」
「・・・そうか」

柔らかく微笑むと、どっしりと重い腕を少年の頭に乗せる。

「あらかじめ用意しておいて良かった。お前にぴったりの名前だ」

自信を持って言った。心の中で「お前はいらない子供じゃないから」と語りかけて口に出す。


「駒南 陸(リク)。そ、これで決まりだ!」


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