トリップ
「リク・・・?」
リクと名づけられた少年は、首を傾げる。
「何で?」
「『お前は必要な子だ』。そう言う意味だよ」
「意味わかんない」
「・・・例えばだ。人間は飛行機に乗らずに天空で生きられるか?」
「そんなわけないよ」
「だろ?じゃあ海では?」
「死んじゃうって」
「だよな。でも、人間は地面、つまり陸があれば生きていける」
「だから?」
「お前は、絶対に不必要じゃない。むしろ誰かの役に立てる。誰かを守れるって事だ」
リクは自分の手の平を見つめて、その名前の意味を噛み締めた。
頬がほころんでくる。
まるで欲しかった玩具を買ってもらったように、今までで一番喜びの満ち溢れた表情で土岐を見つめる。
これが、5歳のこいつの表情か。
少し大人びているようにも、土岐には見えた。リクは早速皆の所に走って行き、もらった名前を教える。
「リクかぁ、ぴったりだよな」
「高校生になって、イケメンになるんだったらなおさら似合ってるよ」
「カッコいい人って、皆そう言う名前だもんね!」
リクは、大事な人からもらった名前をこんなにも褒めてもらえることが誇らしくてならなかった。
―この人がお父さんなら良かったのに。
感謝してもし切れないほどの恩人が、これからもずっとそばにいればいいのにと、思うようになったのはあの事件以来だ。
その日が、リクから恩人と彼の笑顔を奪った瞬間である。