トリップ

リクが8歳になった頃。
現在の集いの場である公民館は、異様なまでの不安のオーラで包み込まれていた。

土岐がいつも帰ってくる時間になっても、ちっとも帰ってくる気配が無い。

年長の者から小さい者まで、誰もが不安そうに入り口を見ている。

「遅い・・・」
「土岐さん・・・どうしたんだろ」

リクが7歳の時に彼が連れてきたジュマという子供が、丁寧な言葉遣いで言う。「大丈夫よ」と秋乃や他の年上の者たちがなだめるが、不安は隠しきれない。
とっさにリクが走り出したのを、秋乃は見逃さなかった。

「リク、どこ行くの!」
「僕、心当たりがある。探してくる」
「ちょっと、待って・・・」

呼び止める間にも、リクはドアを開けて出て行ってしまった。

リクが心当たりがあったというのは、ここから走って10分ほどの所にある事務所だ。土岐の仕事が気になって追跡し始めた頃、何度も土岐があの事務所の前で立っていたのを見たからである。

(大丈夫だよ)

リクは半信半疑になりながらも自分に言い聞かせる。

(何もしてない人は嫌なことは起きない。本で読んだもん・・・)

数十分後の自分の姿など思い浮かべずに、事務所の前に立つ。これといった異変は特に無かった。周りに人は居ない。ただ1階建ての事務所だけがポツリと残っている。

ほら、何も起きないって。

ホッとしたのもつかの間、耳を劈くような銃声が、リクの耳に響いた。

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